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梅毒の注射治療を感染症専門医が解説

梅毒の筋肉注射治療(ステルイズ)が、日本でも認可され、KARADA内科クリニックでも使用することができるようになりました。症状がある方は保険診療として投与することができます。

当院では保険診療により低価格で注射できる事もあり、2022年6月時点で100名以上にステルイズを注射しております。

海外では一般的な治療法だったのですが、日本では使用する事ができず、1カ月間1日3回飲み薬を飲み続けなければなりませんでした。

昨今の梅毒感染拡大はこの治療の困難さも一因だったと考えられます。

梅毒とは?増えているの?

とても増えている性感染症です。昨年はこれまでで最も発生届が保健所に提出された、つまり、これまでで最も流行している状態にある性感染症です。実際にニュースでも報じられ、これに対して五反田院長の佐藤もYahoo!の公式コメンテーターとしてコメントしております。

この梅毒の診療の難しいところは、症状の変化にあると思います。

梅毒は、感染後3週間を第一期梅毒、感染後数ヶ月を第二期梅毒、感染後数年すると晩期顕性梅毒と呼びます。それぞれの時期によって症状が変化するため、まず病気として診断されにくさを持ち合わせております。

加えて、たとえば一期の症状が二期まで持ち越されるわけでもなく、梅毒の症状による発疹が数日前まで出ていたのに気づいたら消えていたなど、クリニックを受診する前に症状が自然に消失することで受診のタイミングや動機を失ってしまうこともあるかと思います。

適切に診断あるいは治療がなされずに徐々に増加してきた梅毒が、昨年過去最高の報告数となってしまったのかもしれません。この梅毒に対して、筋肉注射の治療が認められたことはある意味大変タイムリーなことであり、意義深いことだと思います。

なぜならこれまでの梅毒治療は1ヶ月間毎日毎食抗生物質の薬を飲まなければならなかったのですが、それがたった一回きりの治療で完結するようになるからです。

注射での治療とこれまでの内服治療比較

筋肉注射 内服
受診回数 治療のために1回、治療終了後1回
治療期間 単回投与(受診後すぐ) 1ヶ月毎食内服
投与方法 18ゲージという太い針でお尻に注射 朝昼晩内服
保険診療料金

(3割負担の場合)

約3,000~
4,000円
約2,000~2,500円
(薬代含む)
治療効果判定時期 1ヶ月後
治療効果判定方法 採血
性交渉再開時期・感染性 治療効果判定で治癒を確認してから・・・

 

今までの内服での治療は1ヶ月間、毎日朝昼晩と抗菌薬を飲むものでした。高血圧治療などのように毎日決まった時間に薬を飲むなどのように、普段常用する薬のない方が毎日毎食忘れずに、いくら病気の治療のためとはいえ、内服を忘れずに続けるのは並大抵のことではありません。実際に飲み忘れや治療を適切に最後まで飲み切ることができない方をよくお見かけします。

その状況下で、上記の表にある通り、1度の注射で治療を終えることができる選択肢が生まれました。

ただ、共通点もあり、治療効果の判定のために1ヶ月後に再度来院いただきます。採血にて診断時に検査したR P Rという項目が低下しているかどうかを確認します。したがって、完治までのタイミングや治療効果判定のタイミングなどの手間は同様と考えていただいて良いかと思います。

新しい治療のメリット・デメリット

 

筋肉注射 内服
メリット ・すぐに治療完了

・自宅で治療なし

・飲み忘れを気にせず

体調不良時休薬ができる
デメリット ・アレルギーのコントロールが内服に比べ難しい

・内服に比べて高価

・治療後30分待機

1ヶ月毎食後服用

改めてここで新規治療であり筋肉注射の治療のメリットとデメリットをこれまで行われてきた内服治療と比較しながら解説していきたいと思います。

 

●筋肉注射の最大のメリット

 

1回の来院で治療を終えることができる事です。

梅毒は、普段のみ薬を飲む習慣のないような方が感染していることが多いです。そのような方達が1日に3回薬を飲むというのは本当に大変なことだと思います。そして実際に治療を完遂することができない方もいらっしゃいます。

医学用語ではアドヒアランス(患者さんが自らすすんで治療のために内服を継続すること)と言いますが、このアドヒアランスが保たれず、治療に失敗してしまうことがあります。梅毒は前述の通り、症状も多彩であり、治療が十分なされずとも症状が自然と緩和されこともあります。ただし、感染力は残り、感染が蔓延することにつながります。このように治療が大変なことは、治療を適切に完遂することができない一因であり、昨今の感染者数の拡大につながると考察することもできます。そのため、私たち感染症医もこの注射治療への期待も高いです。

ただし、筋肉注射の治療のデメリットもあります。ここではそのデメリット2つ紹介します。

 

●筋肉注射のデメリット

アレルギー

そもそもペニシリンという抗生物質へのアレルギーがある方はこの筋肉注射は使用することができません。

また、投与後すぐ重大な副作用が発生しないか、注射後30分程度クリニック内にて経過を観察させていただきます。
加えて、梅毒治療は、治療開始後すぐではなく、帰宅後〜1週間程度経過してからアレルギーが生じることがあります。

これまでの内服治療においても自宅にて薬疹が出てしまい、その相談で受診される方がいらっしゃいました。

これは筋肉注射になったから減るものではないと理論上は考えられます。なぜなら注射の効果は3週間程度持続することが報告されているからです。これまでの薬を毎日飲無治療では、途中アレルギー(薬疹など)が出た場合、薬を中断しそのほかの薬に代替してきました。しかし、筋肉注射だと、途中薬の副作用が出ても薬を体から抜くことができません。対症療法などで対応しますが、本薬剤・投与方法の最大のデメリットと言えるでしょう。

注射時の痛み

もう一つは、筋肉注射の時の痛みです。注射は通常の点滴の針よりも太い針を使用します。これは薬の粘性が高いことによって細い針では投薬が難しいためです。採血や点滴などで通常使う針より太く、さらに造影剤(造影C Tなど撮影したことがある方がいればお分かりになるかもしれません)を使用するときに使う針よりも太いのです。

ただし、お尻への注射になりますので、直接その針を見ることなく接種することはできます。1分ほど接種時間がかかりますが、その時間を我慢して、1ヶ月の内服をしなくても良いか。この辺りは個人の価値観と照らし合わせながら治療を選択していく必要があると考えています。

外来で是非相談に乗らせてくださいませ。最後に、接種部位を参考までに下記の通り添付しておきます。ご参考にしてください。

 

治療開始後に関して

 

2点共有しておきたいことがあります。

●治療後の副反応について

Jarisch-Herxheimer reactionという反応があります。ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応と呼びます。これは内服でも筋肉注射後でも起こる可能性があります。具体的には、内服開始して数時間以内に始まり、24時間以内に発熱(倦怠感あるいは頭痛など)が治るような現象です。

これらの症状が出ても、特段治療を中断する必要はなく、何もしなくても自然に軽快します。実際に生じると驚かれると思いますので、必ず治療前に説明させていただいております。

治療後1週間たってから発疹(元々あった梅毒による皮膚の湿疹のこと)の悪化や、皮膚が赤くなってきた、というのは薬の副作用のことが多いです。内服薬を中止し、再度ご相談ください。

その他の副反応や困ったことは、再度受診の上ご相談いただければ幸いです。

●治療効果の判定に関して

筋肉注射の治療であっても内服であっても、治療開始1ヶ月後の評価をお奨めしております。内服の場合には、内服を終えた達成感と共に、治療効果があったかどうか期待感を持って皆様忘れずに受診してくださることが多いです。ただし、注射の場合、それですぐに完治したと誤認しがちです。注射一度ですぐに菌が死滅するわけではありません。実際に注射の薬の効果は3週間程度続きその中で梅毒の菌が減っていくように考えていただければと思います。

終わりに

 

KARADA内科クリニックではすでに梅毒治療の筋肉注射を実施しております。筋肉注射に対する患者さんの感想やリアクション(意外と痛くない・とても辛かったなど)も様々です。ブログでは分かりにくかった点もあると思います。お気軽に、新しい梅毒治療について感染症専門医へご相談くださいませ。

参考文献・資料
https://pfizerpro.jp/cs/sv/stelues/faq.html#faq03
http://labeling.pfizer.com/ShowLabeling.aspx?id=691 2021/9/3
一般社団法人日本性感染症学会: 性感染症 診断・治療ガイドライン2020 1 診断と治療社: 46, 2020
Hagdrup, H. K. et al.: Chemotherapy 32(2): 99, 1986
Thomas, E. W. et al.: JAMA 162(17): 1536, 1956

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田中雅之

渋谷院長KARADA内科クリニック渋谷
KARADA内科クリニック渋谷 院長 【資格】医学博士、日本感染症学会専門医、日本プライマリ・ケア連合学会認定家庭医療専門医、日本内科学会認定総合内科専門医、日本医師会認定産業医、臨床研修指導医(厚生労働省) 東京だけではなく、北海道のオーホーツク海を目の前にしながらも総合内科医としてその地域に根ざした診療に従事してきた。また、内科の専門として感染症専門医としてもこれまで一般的な感染症診療のみならず、ワクチン接種や性感染症やHIV感染症などの診療にも取り組んできた。 また、研究者として、医療現場の日常に潜む倫理的な課題にも向き合いながら学会や論文で発信を続けている。

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