HIV予防薬PrEPのよくある質問を、感染症専門医が解説

2022.03.04 医療情報

HIV予防薬PrEPのよくある質問を、感染症専門医が解説

当院ではHIVの専門的な検査だけでなく、治療も行える感染症専門医が在籍しております。

そのため、薬の幅広い専門知識でのHIV(エイズ)予防薬投与のアドバイスが可能ですので、お悩みの方はご相談ください。

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Q.PrEPとは何ですか?

PrEPとは「曝露前予防内服(Pre-Exposure Prophylaxis)」のことです。これは、性交渉の前後に薬を継続して服用することによって、HIVに感染するリスクを下げる予防法です。HIV未感染者が、自身がHIVに感染するのを予防するために薬を飲むことです。PrEPの錠剤は抗HIV薬であり、HIV陽性者がHIVの治療のために服用する錠剤と同様の種類です。当院では、ジェネリックと言われる後発薬品をご用意しており、安価に皆様に提供することができます。

Q.PrEPはどのように内服するのですか?

もっとも一般的に行われているPrEPは、1日1回1錠の薬を内服するという方法です。HIV陽性者が、HIVの治療のために一般的に服用するものと同様の錠剤の一つです。PrEPは決められたとおりに正しく服用することで、最大の効果が得られます。十分な薬物の血中濃度を確保することができ、結果としてHIV感染予防につながります。

Q.PrEPの予防効果はどれくらいですか?

過去の報告で、ツルバダ(TDF/FTC)という薬を1日1回1錠の内服を継続することで行われた研究では、アドヒアランス(薬を自ら進んで適切に飲むことができること)が良好であれば90%以上予防可能と言われております。(Sci Transl Med.2012 Sep;4(151)ra125)

Q.PrEPはどんな人に効果がありますか?

アメリカの2014年のガイドラインでは、ゲイセクシャル、ヘテロセクシャルな男女、静脈薬物使用者に効果があると効果があると指摘されています。特に、HIV感染リスクの高いアナルセックスがある方、不特定多数とのセックスがある方には推奨されます。

Q.飲み忘れても平気ですか?

できるだけ毎日内服していただきたいです。それは、きちっと内服することで、90%以上の予防効果があるという報告があります。(Lancet Infect Dis.2014 Sep;14(9):820-9.)言い換えれば、できるだけ飲み忘れのないように心がけていただき、治療効果を高めてHIV感染を皆様に予防していただければと考えています。

Q.薬を飲み忘れたことに気づいたらどうすれば良いですか?

PrEPの服用を忘れてしまっても、(それまできちんと服用できていれば)体内では高い予防効果が保たれています。飲むべき日のうちに飲み忘れに気づいたときに1錠服用し、その次は決められた時間に服用してください。

Q.内服の方法はどんな種類がありますか?

KARADA内科クリニックでは、2種類の方法を用意しております。デイリーPrEPとオンデマンドPrEPです。

デイリーPrEPは、PrEPを1日1回、毎日、継続的に服用する方法です。ほとんどのPrEPの研究はデイリーPrEPに基づいて行われており、ほかの服用方法よりもデイリーPrEPの方がより科学的な根拠があります。デイリーPrEPは、肛門性交、シスジェンダーの異性愛者(男女)の膣性交および薬物注射に関して研究が行われてきました。多くの国際的なガイドラインが、PrEPを服用する唯一の方法としてデイリーPrEPを推奨しています。
一方で、オンデマンドPrEPは性交渉の前日、直前そして翌日にPrEPを薬を飲みます。フランスの研究では、肛門性交によるHIV感染の予防の場合にはオンデマンドPrEPが有効であることが示されています。有効性が示されているIPERGAYという研究と同様に当院でのオンデマンドPrEPの服用方法は、予想される性交渉の24時間前に2錠服用します。そして内服から24時間後(性交渉当日)、最初に2錠を服用した24時間後と48時間後に1錠ずつ服用します。数日連続で性交渉を行う場合は、最後の性交渉の48時間後まで毎日1錠の服用を継続してください。ほとんどのヨーロッパのガイドラインは、HIVの感染リスクが肛門性交の場合、オンデマンドPrEPを支持しています。

Q.デイリーとオンデマンド、どちらを推奨しますか?

性交渉の頻度やタイミングによって回答が変わるので医師にご相談ください。現状としては、当院で患者さんと治療の相談をしていると、圧倒的にデイリーPrEPを選択される方が多いかと思います。医師としても、これまでの研究データがリッチであること、加えて、性交渉の機会が突然、予定外に訪れることが多く、デイリーPrEPを選択する方がより有効に感染対策を行えると考えるからです。体の部位によって薬物吸収が異なるため、オンデマンドPrEPは、HIVの感染リスクが膣性交や薬物注射による人には推奨されないため注意が必要です。

Q.本当にPrEPを開始した方が良いか悩んでいます。

適切に内服すればとても予防効果が高く、重篤な有害事象(副作用)も報告がありません。加えて、耐性ウィルスの出現に関しても有意に増えるという報告はありません。したがって、世界的にもHIV感染症を減らすという目的において、いかにPrEPを導入してもらうのかが課題となっております。KARADA内科クリニックでは、感染症専門医が常に診療を提供しております。皆様からの問診を通じて、HIV感染のリスクを考慮した提案ができればと考えております。お気軽にご相談ください。

Q.PrEPはどのような人に推奨されますか?

HIV感染リスクを有する性的活動性のある

  • 成人ゲイセクシャル間
  • 成人男女間 など

特に、ゲイセクシャルの方で、HIV未感染で過去6ヶ月以内に男性との性交渉があり、かつ、次のいずれかがある方

  • コンドーム無しの性交渉がある
  • 過去6ヶ月で性感染症(梅毒やコンジローマや淋病/クラミジアなど)が判明している
  • HIV感染している男性と性交渉がある

上記の方にはPrEP開始が強く推奨されます。

Q.一生内服する必要がありますか?

人のHIV感染リスク・性交渉の頻度はその人の人生において一定ではあることはないと思います。生活環境の変化や時間の経過とともに変わることでしょう。たとえば、新しい都市に移ったり、パートナーとの関係解消あるいはその他のパートナーへの変化など事情は様々でしょう。したがって、状況によって感染リスクも様々です。当然性交渉などリスクがなくなれば、内服を続ける必要はないと思います。これらは時に「リスクの時期」とも呼ばれます。人はさまざまな理由でPrEPの使用をやめるかもしれません。たとえば、性行動を変えたり、HIV陽性のパートナーのウイルス量が検出限界以下に達したり、あるいは関係が安定してほかと性交渉をしない1対1の関係になったりするかもしれません。PrEPの服用者に対するサポートには、HIVの曝露リスク、PrEPを安全にやめたり再開する方法の啓発といった、PrEPを取り巻く状況の認識を含める必要があるでしょう。 PrEPをやめる場合でも、最後のHIVの感染リスクがあったあとの数日間は、服用を続ける必要があります。

Q.副作用はどんなものがありますか?

腎臓機能の異常が報告されています。頻度は稀ですが、PrEP服用中に腎臓に問題が生じる場合があります。内服を開始する前に腎臓の機能を確認することにより、PrEPを中止すべきかどうかを判断をさせていただきます。KARADA内科クリニックでは、PrEPの開始前と内服終了後に血液検査(血液中のクレアチニンおよびeGFR)で腎臓の機能を確認しております。なお、内服中に腎臓機能の障害に患者さん自身が気づくことは難しいかもしれません。腎臓機能の障害は、症状が出ることは比較的進行した状態です。進行すると体が浮腫むことや尿量が低下したりします。
また、頭痛や吐気を感じる方もいらっしゃいますが、多くの方は1週間くらいたつと慣れてきて、何も感じなくなる方がほとんどです。
内服中に何らかの異常があれば、外来でご相談いただければ幸いです。

Q.オンデマンドとは何ですか?効果がありますか?

event driven doseと言われ、具体的には性行為前に2錠剤、直後に1錠剤さらに24時間後に1錠剤飲む方法です。これはフランスとカナダで実施された肛門性交渉(HIV感染リスクの高い性交渉)におけるHIV感染予防を調べた研究で高い効果がありました。(N Engl J Med. 2015 Dec 3;373(23):2237-46.)性交渉が計画的に実施されるような方では使用が推奨できますが、性交渉の頻度や偶発的に行為を行うことが少しでもある方はデイリーPrEPの方が予防しやすいのではないでしょうか。

Q.オンデマンドPrEPを使用できないケースはありますか?

膣を介する性交渉です。これは、イギリス国内と国際的なガイドラインは、この点に関して一貫した推奨を出しています。膣性交の場合、デイリーPrEPが推奨される唯一の方法です。第一の理由は、オンデマンドPrEPがゲイセクシャルの方に対してのみ調査されており、その主なHIVの感染リスクは肛門性交によるものだということです。第二の理由は、テノホビル(PrEPに含まれる2種類の薬物成分の1つ)が組織内で十分な濃度に達する時間に差があり、直腸に比べ膣でははるかに長い時間を要するためです。つまり、膣性交の場合、オンデマンドPrEPでは充分な効果が期待できないということが理由になります。

Q.PrEPはHIV以外の感染症も予防しますか?避妊はしなくても平気ですか?

PrEPはHIVの感染予防にのみ効果的であることが証明されています。PrEPが単純ヘルペスウイルス2型およびB型肝炎の感染予防に何らかの影響を与える可能性を示唆する研究もありますが、明確な根拠をまだ示すことはできない状態です。一方で、コンドームの場合、毎回正しく使用すれば、HIV、淋病、クラミジア、梅毒、C型肝炎など多数の感染症の防御になります。また、PrEPに避妊効果はありません。以上からも、コンドームの有効性や意義を考慮して適切にできるだけ使用していただければ幸いです。

Q.内服以外の予防はありませんか?

Safer Sexが重要と考えます。Safer Sexとは、パートナーも感染していないことが確実で、お互い以外のセックスパートナーがおらず、さらにコンドームを正しく使用することです。パートナーとの関係性などは医療の観点からはなかなか介入が難しいことが多いですが、コンドームを適切に使用すること、それを指導することは私たちでも可能です。日本性感染症学会が推奨しているこちらの動画などで今一度その方法を復習されることをお勧めいたします。

Q.ジェネリックと先発品の違いは何ですか?安全性は問題ないですか?

ジェネリック薬品とは、一般的に新薬と同じ有効成分を含む医薬品のことを指します。新薬は研究開発投資が大きいこと、また発売後に一定期間有効性・安全性を評価するため、それらの費用を加味した価格が設定されています。一方で、ジェネリック薬品はその開発費が100~1000分の一程度に抑えられると言われており、安価で皆様の元に効果を同じくして提供することが可能になっております。ただし、海外から輸入する事となるPEP/PrEPのジェネリック医薬品は万が一副作用が生じても、国内の健康被害救済制度は適応とならない点だけご理解ください。

Q.PEPとPrEPの違いを教えてください

PrEPはPEPと異なります。PEP( Post– Exposure Prophylaxis「曝露後予防内服」)とPrEP(Pre-Exposure Prophylaxis「曝露前予防内服」)の主な違いは、PEPはHIVに暴露したと考えられる性交渉「後」に服用され、PrEPは性交渉「前」に毎日継続して服用される点です。

Q.どうして採血する必要があるのですか?

  • HIV感染の有無の確認

    治療開始前に既に感染していたという可能性を否定する必要があります。既に感染することに気づかずに、PrEPやPEPを実施すると、薬が効きにくいウイルス(耐性ウイルス)というものを生み出してしまう可能性が高まります。これは社会にとっても、患者さん自身にとっても良いことではありません。PEPやPrEPのような予防ではなく、治療としてHIV治療に向き合う必要があるためにこの予防治療開始前に感染の確認は必須と考えます。

  • 副作用

    稀ではありますが、腎臓機能を確認しておく必要があると考えます。内服をスタートしても問題ないか、内服後の腎臓機能障害が発生してないかどうか、評価するためにも実施しておく必要があると考えます。

Q.薬を飲む時間は1日の中でいつでも良いか?

いいえ。薬はできるだけ決めた時間に飲みましょう。初回に内服した時間にできるだけ翌日以降も合わせて内服してください。薬というのは用法を守ることで期待される効果が発揮されます。せっかく購入して、予防を講じるのであれば、予防効果を一番期待できる飲み方で使用しましょう。ただし、万が一飲み忘れてしまったとしても、その日のうちであれば速やかに内服していただいて構いません。


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記事執筆者

KARADA内科クリニック 五反田

院長 佐藤 昭裕

KARADA内科クリニック院長。医学博士。日本感染症学会専門医。

総合診療医として全身の幅広い診療と、感染症専門医としてHIV感染症や結核、マラリアなどの診療に加え、集中治療、院内感染対策、ワクチン診療などに従事。性感染症(性病検査)も専門とする。
「東京都感染症マニュアル2018」や「感染症クイック・リファレンス」などの作成に携わる。

東京医科大学病院感染症科医局長や東京医科大学茨城医療センター感染制御部部長、感染症科科長などを歴任し、現職に至る。
-著書『感染症専門医が普段やっている 感染症自衛マニュアル』
●日本テレビ スッキリに感染症専門家として毎週出演中 ●Yahoo!ニュース公式コメンテーター

認定資格

  • 医学博士
  • 日本感染症学会専門医・指導医
  • 日本内科学会認定医
  • 日本化学療法学会抗菌化学療法認定医・指導医
  • 日本感染症学会推薦 ICD(Infection control doctor)
  • 日本エイズ学会認定医
  • 日本医師会認定産業医
  • 臨床研修指導医(厚生労働省)
  • 身体障害者福祉法指定医(免疫機能障害)

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