HIV PrEP薬(ツルバダ)が薬事承認され変わったこと

公開:2024.12.02 医療情報

HIV PrEP薬(ツルバダ)が薬事承認され変わったこと

2024年8月に、PrEP(プレップ)で利用されるツルバダ配合錠が薬事承認されました。これまで日本国内でプレップの薬で薬事承認されていたものはありませんでした。承認されてから約3か月がたち、何が変わったのでしょうか。

ツルバダ配合錠とは?

過去にHIV治療薬として使われていた薬で、エムトリシタビンとテノホビルジソプロキシルフマル酸塩の合剤です。現在はほぼ治療で使われることはなくなってきました。それは、デシコビ配合錠というツルバダ配合錠の進化版のような薬が発売になったためです。世界的にはプレップの薬としてそのジェネリック薬が利用されています。

薬事承認とは?

これまでツルバダは、「HIV治療薬」として薬事承認を受けており、治療に使われていました。そのため「HIV予防」に使うことはできなかったのです。しかし、プレップはWHOも推奨するHIV予防法であり、日本でも使うことができるようにするために、日本エイズ学会が厚生労働省に対し使えるようにしてもらえるように申請をだしていました。その申請が通り、ツルバダを「HIV予防薬」として使うことが認められたのです。

これまで日本ではどうしていた?

薬事承認されていなかったため、

  • 海外から個人輸入
  • 海外から輸入をしているクリニックから購入

この2つの方法で「適応外使用」という形で使っていました。また、日本にはツルバダのジェネリックも存在しないため、輸入のジェネリックに頼るしかありませんでした。

これから日本ではどうなる?

ここから話は少しややこしいのですが、「ツルバダが薬事承認を受けた」といっても、安価なジェネリック薬がないことには変わらないので、「先発品であるツルバダでプレップをできるようになった」ということになります。しかし先発品はとても高価であり、1日分で約2,500円かかり、1か月で約80,000円くらいかかってしまいます。

また、これまでクリニックで輸入できていた「ツルバダのジェネリック」が輸入できなくなります。その理由は、厚生労働省は「国内に代替品のない薬剤に関してのみ輸入を許可する」というルールがあるからです。「値段が安いから」というのは輸入の理由にはなりません。

今後のPrEPの処方に関して

そのため、今後日本でプレップを行いたい方は下記のいずれかの方法になります。

  1. デシコビのジェネリックをクリニックから購入する
    ツルバダと比べ、デシコビは腎機能障害や骨密度の低下という副作用が起こりにくい薬剤であり、その予防効果もツルバダと同様に99%以上とされています。デイリープレップの方は、問題なくこちらに移行できると思います。しかし、オンデマンドで飲まれている方は少しためらう方もいるかもしれませんが、当院ではオンデマンドとして内服したい方にも、内服の注意点等を説明したうえで処方を行っております。
  2. ツルバダの先発品をクリニックから購入する
    デメリットはやはり金額面です。
  3. ツルバダのジェネリックを個人輸入する
    円安の影響で、これまでに比べ高くなってはきていますが、個人であれば購入可能となっています。しかし、偽薬(実は効果のないニセモノの薬)がでまわっていたり、輸入に上限(1か月に1本)があったり、ガイドラインで推奨されている3か月に1度の検査が自己管理になってしまったりと、デメリットは多く存在します。

KARADA内科クリニックでの取り組み

当院はこれまでもデシコビのジェネリック薬を中心にプレップ処方を行ってきました。もちろん当院でプレップをされている方で、HIV陽性となってしまった方は1人もおりません。これまでツルバダジェネリックを内服されていた方も、是非ご相談ください。

ツルバダの薬事承認により、保健所や厚生労働省からもプレップ啓発がしやすくなったと思います。また、承認によりこれまでプレップに対し不安を持っておられた方も多少安心感が増したのではないでしょうか。実際当院でプレップを開始される方が9月以降増加傾向にあります。

しかし、まだまだ問題は残っております。薬事承認されたといっても、この価格で始めようと思う方はなかなかおられないと思います。これからもKARADA内科クリニックでは、皆さんに安心して。かつ便利にプレップを利用していただけるようにするために努力を続けていきたいと思っております。

参考資料

ギリアドサイエンシズ社資料 
厚生労働省 
利用の手引き

記事執筆者

KARADA内科クリニック 五反田

院長 佐藤 昭裕

KARADA内科クリニック院長。医学博士。日本感染症学会専門医。

総合診療医として全身の幅広い診療と、感染症専門医としてHIV感染症や結核、マラリアなどの診療に加え、集中治療、院内感染対策、ワクチン診療などに従事。性感染症(性病検査)も専門とする。
「東京都感染症マニュアル2018」や「感染症クイック・リファレンス」などの作成に携わる。

東京医科大学病院感染症科医局長や東京医科大学茨城医療センター感染制御部部長、感染症科科長などを歴任し、現職に至る。
-著書『感染症専門医が普段やっている 感染症自衛マニュアル』
●日本テレビ スッキリに感染症専門家として毎週出演中 ●Yahoo!ニュース公式コメンテーター

認定資格

  • 医学博士
  • 日本感染症学会専門医・指導医
  • 日本内科学会認定医
  • 日本化学療法学会抗菌化学療法認定医・指導医
  • 日本感染症学会推薦 ICD(Infection control doctor)
  • 日本エイズ学会認定医
  • 日本医師会認定産業医
  • 臨床研修指導医(厚生労働省)
  • 身体障害者福祉法指定医(免疫機能障害)

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